[星降る夜に]
Eno2111 念岨桐 瞑
12月24日、クリスマスイブの清きこの夜。
幽霊メイドのメイこと念岨桐 瞑は浮かれていた、浮き足立っていた。
別に足が無くてフワフワ浮かんでいるから…と言う意味ではない。精神面での話だ。
「あぁ…、聖なる夜の何と素晴らしき事でしょう!」
幽霊でありながら聖夜を祝う、矛盾している気もしなくはないが。
いつものメイド服を黒サンタ仕様に変え、光悦な笑みを浮かべている。
だらしなく緩んだその表情で、メイは夜空の月に向けて叫んだ。
「何故ならクリスマスとは…、堂々と幼女の枕元に忍び込んでも許される素晴らしき日なのですからっ!!」
天高くかざした拳が、いやらしい手付きで蠢き月を掴む。
明らかに忍び込むだけでは済ませそうもないその表情で、メイは身を翻し今宵の”ターゲット”の元へと飛び立った。
知らない人の為に注釈しておこう。
幽霊メイドのメイこと、念岨桐 瞑。この者は大の「ぺったんこ好き」であり極度の「ロリコン」であり、超が付くほどの「ド変態」である。
知らない人の為に注釈しておこう。
クリスマスとは、堂々と幼女の枕元に忍び込んでも許される日ではない。大きなお友達は決して真似しないようにしよう。
【A パート 1】 Target 三神 花代
島のどこかにあるとある宿、共に探索する仲間達が寝泊りしているその宿の廊下を、メイは音も無く歩いていった。
何せ足が無い、ボロイ床でも足音立てずに歩けるのは道理だ。
だったら壁抜けとか空飛んだりすれば手っ取り早いのだが、どうやらそれは出来ないお約束らしい。
それでも幽霊は幽霊、夜間のステルス性はバッチリだ。
「初めのターゲットは…カヨ様ですね。さぞかし可愛らしい寝顔に違いありません。
年齢的には多少メイの好みからは外れますが…あの幼児チックな言動は素晴らしい。
それに、いつもは着物に隠れて確かめられない胸のサイズも、寝巻きだったら簡単に…。うふふ…。」
説明的な独り言を呟きながら、ターゲットの部屋へと向かう。
やがて一つの扉の前で立ち止まり、にやけた顔でそのドアノブへと手を掛ける―
ヒュ―
その一瞬、何かがメイの手元を通り過ぎた。
ビィーンっと震える甲高い音を立てて、メイの直ぐ脇の壁に何かが突き刺さる。
…短剣だ。
小振りの短剣が、ドアノブへと掛けたメイの手を掠め、壁に突き刺さっていた。
メイも咄嗟に身を翻し、叫ぶ。
「…これは何のマネですか、ヨリさん!」
振り向いた先に居た者は、黒髪に黒装束で黒い眼帯。そして片目から覗く青い瞳。
共に探索する仲間…のハズの青年、三神 依花、その人だった。
常にカヨと共に居るその青年が、明らかな殺気を湛えてメイへと短剣を向けていた。
「それは此方の台詞だよ…。ノックもせずに花代の部屋に入ろうとして…なんのつもり?」
「今夜はクリスマスイブですよ?プレゼントをそっと枕元に置くのが醍醐味ではありませんか。」
「その邪な顔でよく言えたものだね。下心が丸見えなんだよ、キミは。」
ヨリは警戒を緩める事無く、短剣を構えてにじり寄る。
そしてメイも、自らの得物であるデッキブラシを何処からとも無く取り出し、ヨリへと向けていた。
一触即発。自らの守る者と、自らの欲望を掛けて、PT内小戦争が勃発しようとしていた。
「…や、お二人サン、今日も仲が良いねぇ。」
「「………!?」」
突然割り込んだ第三者の声、対峙していた二人の顔に驚きが浮かぶ。
「ヴィーさん…?」
「…いつから。」
「え、今さっきだよ?カヨにプレゼントを渡そうと思って、ね。通っても良いカナ?」
第三の人物、アイヴィ・ドゥシェル。同じく共に探索する仲間だ。
彼は目を細めて笑みを作りながら、二人の間をヒョロヒョロと歩いて、カヨの部屋の扉へと向かう。
まるでその気配を感じ取れなかった事実に呆然としながらも、メイとヨリはハタと気付いて声を上げた。
「「花代の(カヨ様の)部屋へは何人たりとも通さない(通しませんッ)!!」」
息を合わせたかのようにピッタリとそう叫んで、短剣とデッキブラシの矛先がヴィーへと向けられる。
肝心のアイヴィは、頬をポリポリと掻きながら苦笑を浮かべ、ポツリと呟く。
「…やっぱり、仲が良いねぇ。」
こうして、クリスマスイブの夜が始まった―――
【A パート 2】 Target シルヴィア
島のどこかにあるとある宿、メイは相も変わらずにやけた表情で宿の廊下を飛んでいる。
「カヨ様の件は何だかんだでうやむやになってしまいましたが…、気持ちを切り替えましょう。
次はシルヴィア様ですね、うふふ…どんな寝顔なのか想像もつきませんね。」
ニヨニヨと頬を緩ませながら、目標の部屋へと辿り着く。
念の為に…と辺りを確認し、ひと気が無い事を確認する。その様はまさに、空き巣のそれだった。
だがそんな事は気にしない、メイは今度こそと、その部屋の扉を開いた。
月明かり、そして夜風。
部屋の窓は開け放たれ、冬の透き通った風が扉を通して流れていく。
霊体であるハズのメイにまでその寒気が伝わり、ブルリと身を震わせる。
部屋の中を確認しても、人の姿は何処にもない。ただただ静かに、風が流れている。
「………誰も居ない?シルヴィア様と、あの人は…?」
辺りを見渡しながら、メイは入ってきたその扉を閉じた。
すると…扉の影から何かがヌっとせり出して来る。
白くて、黒くて、硬くて冷たくて、ニタリと微笑む、仮面のッ―
「ぎゃあぁぁっ、オバケッー!?」
慌てて飛びのき、その正体を確認する。
誰も居ない訳ではなかった、初めから扉の影に居ただけか。よくよく見ればその人物がこの部屋の宿泊客。
常に白い仮面を被り、その顔も、声すらも分からない、謎の道化師。それでも一応は探索仲間だ。
飛びのいた姿勢のまま固まるメイに、コロコロと鈴が鳴るような笑い声が響いてきた。
「あら、メイったら。オバケは貴女の方じゃない?ねぇ、ピエロ。」
「………。」
謎の道化師、ピエロの肩に乗った少女の人形が可笑しそうに笑っている。
同意を求められたピエロは僅かに視線を移し、ゆっくりと頷いた…ように見えなくもない仕草を見せる。
その少女人形こそが、現在のメイのターゲット、シルヴィアだ。
「シルヴィア様…寝ておられないのですか?」
「私は人形よ?寝たり出来るのかしら?良い夜だからピエロと月を見てたのよ。」
「そんなっ、それでは寝顔を見ながらあんなコトやこんなコトをしようと企んでいたメイの夢はどうなるのですかッ!!?」
「涙を流しながら力説しないで?私も色々と悲しくなっちゃうわ、情けなくて。」
人形なりに苦笑した表情を見せながらも、シルヴィアはコロコロと笑っていた。
何度も言うが人形である。ロリコンでぺったんこ好きのメイが何故、人形であるシルヴィアにまで手を出そうとするのか…。
もう、幼女だったら何でも良いのかコイツは。実際何でも良いのだろう、呆れるほどの変態である。
さて、メイは枕元に置くのは諦めたのか、そのままプレゼントを取り出していた。
一応はプレゼントも用意しているのである、寝顔拝見の二の次ではあるものの。
「と言う訳でシルヴィア様、メリークリスマスで御座います。これをどうぞ。」
「どうせ私の着せ替え衣装か何かなんでしょう?」
「勿論ですッ!好きなだけコスプレしてください、シルヴィア様。そしてそのお姿をメイに!」
「…そ、それってもう、メイへのプレゼントにしかならないわよねー?」
鼻血を吹きそうな顔で微笑みながら、人形サイズなコスプレ衣装をシルヴィアへと渡そうとした。
だがその時、空気のように佇んでいたピエロが、再びヌっと顔を突き出す。白い仮面がじぃっとメイを睨みつける。
「ひぃっ!?いきなり出てこないでくださいよピエロさん、怖いじゃないですか!」
「………。」
「…な、なんですか?ピエロさんもヨリさんみたいに、シルヴィア様を守ろうとかそういうノリで?」
「………………。」
「……えーっと。この人苦手です。」
本人の前で堂々と失礼な発言を言い放ち、にらめっこ状態から顔を背けた。
そんなメイとピエロに向かって、シルヴィアが笑いかける。
「ふふ、ピエロもプレゼントが欲しいのよね?」
「…は?男に渡すプレゼントなんてメイは用意してませんよ。」
「………。」
「あらあら、落ち込んじゃった。元気出して、ピエロ?」
「お、落ち込んでるんですか…?違いが分かりません。」
「……………。」
「ひぃっ!だから急に近づかないでください、怖いですってばー!!」
そしてメイは逃げ出した。
「だったらピエロさんがシルヴィア様を着せ替えて楽しめば良いじゃないですかー!」とか何とか言いながら衣装を押し付けて。
どちらにしても、メイしか得はしない気もするが。そもそも自分の欲望しか頭にないメイドなのだ。
ポツンと残されたピエロとシルヴィアの元に、新しい声が掛けられる。
「メリークリマス。良い夜だね、お二人サン。」
「あら、アイヴィ。メリークリスマス、良い夜ね。」
まるでタイミングを計ったかのように、アイヴィが現れる。手元にプレゼントの袋を抱えて。
ピエロはじーっとそのプレゼント袋を見つめていた…ような気がしなくもなかった。
「アイヴィもプレゼントくれるのね?ピエロへのプレゼントはあるかしら?」
「あー、ごめんね、そっちは用意してなかったよ。」
「………。」
「っと、冗談だよ。君にもプレゼント用意してるから、ね?」
「……………。」
「あらあら、ピエロったら喜んじゃって。良かったわね?」
仮面の怪人は、微かに頷いて嬉しそうに微笑んだ…ように見えなくも無かった。
そして、クリスマスイブの夜は続いていく―――
【A パート 3】 Target 五十鈴菖蒲
島のどこかにあるとある宿、メイはダッシュで廊下を飛んでいた。
「やはりお邪魔虫が付いているのが悪いんです、イブの夜には二人っきりなのが良いのではないですか!
その点あやめ様ならお部屋にお一人でしょうし、誰に邪魔されるでもなく寝顔を観察できますね、うふふ…。
待っててくださいねあやめ様、直ぐにメイが参りますから!」
すっかりスキップ気分で(足は無いが)あやめの部屋へと向かう。
部屋に着いたら、辺りを見渡しひと気が無い事を確認する。そっと扉を開いて部屋の中に進入し、勿論扉の陰も確かめた。
…邪魔するものは誰も居ない。
静かに聞こえる寝息、ベッドの中であやめが眠っている。
五十鈴菖蒲、共に遺跡を探索する仲間で女子高生だ。ロリコンのメイの好みからは多少離れるものの、この際とやかく言ってはいられない。
その内幼女化の呪いでも編み出して真っ先に試そうと思っているぐらいなのだから。
何より、今この瞬間はあらゆる意味で絶好のチャンスではないか。
「あやめ様、起きてらっしゃいますか…?」
「くー…、くー…。」
問いかけても寝息しか返って来ない。
ニヤリ、メイの顔に邪悪な笑みが浮かぶ。そぉっとそのベッドに近づき、あやめの寝顔を覗き込もうと近づいた。
だがその瞬間、凄い勢いで何かが飛んでくる。それは短剣などと言うひょろいレベルではなかった。
「むにゃむにゃ…はうあー!」
「べふっ!!?」
謎の寝言と共に放たれたあやめの寝返りパンチが、メイの顔面を捉えて吹っ飛ばす。
メイはコロコロとローリングアタックばりに転がって壁へと激突した、ツーと一筋の鼻血が垂れる。
「…く、ふふふ…。良いパンチです、あやめ様、それでこそ遣り甲斐があると言うものっ!」
明らかに快感を湛えた表情で起き上がり、再びあやめに襲い掛かろうと飛び掛った。
既に寝顔を見るだけ…なんて生易しいレベルではない。枕元にプレゼントを…なんて建前はとっくに忘れ去られている。
対するあやめは全く警戒心の無さそうな表情で眠っていた、だがその手は迎撃の態勢を取っている。
軍人となるべくして育てられた少女の本能か。だったら先に目が覚めるべきだとも思うが。
「あやめ様、今日こそお胸のサイズを測らせていただきますッ!」
「くくく…越後屋、お主も悪よのぅ。(寝返りパンチ!)」
「ぎゃふぅ…!ならばこのまま添い寝はどうですかッ!」
「うわらばッ!(寝返りキック!)」
「ふぎゃぁっー!し、しかしメイは負けませんッー!!」
飛び掛っては殴り飛ばされ、襲い掛かっては蹴り飛ばされ、二人はそんなやり取りを延々と続けていた。
そんな二人の様子を安全な距離から眺めていたアイヴィが、ぽつりと呟く。
「枕元に…ってのは危険そうだねぇ。プレゼントは部屋の隅にでも置いとこうかな。」
そんなこんなで、クリスマスイブの夜は更けていく―――
【A パート 4】
島のどこかにあるとある宿、フラフラとおぼつかない足取りでメイは漂っていた。何度も言うが足は無い、様子の話だ。
宿のエントランス、見慣れた二人がテーブルの上にワインとグラスを置いて寛いでいる。
「や、メイ、お疲れ様。どうだった?」
「その鼻血からすると、良い物を見れたようだな、メイ殿。」
「…えぇ、良い物をたらふく貰いましたよ、顔面に。」
あやめに貰ったパンチでダラダラと流していた鼻血をふき取りながら、メイは返答を返した。
片方はアイヴィ・ドゥシェル、先ほどから気が付けばそこに居る人物だ。
そしてもう片方はアイオン・B・ディモティオン、共に探索する仲間であり、旅の牧師。
そう、牧師だ。幽霊とはこの上なく相性が悪いだろう、メイもそんなアイオンを常日頃から警戒していた。
対するアイオンの方は、これと言って気にしている様子はなさそうだが。
「お二人は何をされていたのですか?」
「酒盛り。アイが良いワインを用意してくれてね。」
「イブの夜に良い年した男が二人で飲んでるとか、可哀想な以前に恐怖を覚えますよ。」
「ははは…言ってくれるな、メイ殿。」
微妙に空気が凍りつく。
「…まぁ、メイはこれから幼女の皆さまの寝顔を覗きいてついでにプレゼントを渡すという崇高な使命がありますから、そんな負け組にはなりませんが。」
「まだ諦めてないんだねぇ…。ある意味凄いよ、メイ。」
「そんな、褒められても困りますよ。」
「褒めているの…か?」
自慢げに胸を張りながら、メイは宿を出ようとする。
本当に他の幼女達の元へも忍び込もうというのか、流石に生きて返ってこれる保証がないのだが。よくよく考えれば元から死んでいる訳で…。
そんなメイに、後ろからアイオンの声が掛かる。
「メイ殿、プレゼント代わりにお守りを渡しとこう。」
「はぁ?男からのプレゼントなんて欲しくもないで・・・」
「心配するな、ただの十字架だ。」
「…………ぎゃああぁあぁっ!!?」
突然投げられたその十字架を、うっかりキャッチしてしまう。手の中で何度か転がしてから、アイオンへと突っ返した。
そのままメイは、何処へとも無く飛び去っていく。お守りを突っ返したので、やはり無事に帰ってこれる保障は無いが。
「…別に対魔の効果は無かったのだがな。」
「はは…。ホントに、賑やかだねぇ…、ココは。」
軽くワインを口に含み、アイヴィはにこやかな笑みを浮かべていた。
それが彼ら、「Vulgar Jokers」のクリスマスイブの様子である―――
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PT内から、
ENo1355 アイオン・B・ディモシオン さん
ENo1656 ピエロッテ=A=ピエロッタ さん
ENo1731 三神 依花 さん
ENo1906 五十鈴菖蒲 さん
ENo1996 アイヴィ・ドゥシェル さん
以上の方をお借りしました。
勝手に動かしてごめんなさい!
BパートにはPT外の方を借りようと思ってましたが、力尽きたので諦めました。